ていねい屋物語

 

episode1 反面教師

 

なぜ、ていねい屋という名前を付けたかと言えばそのルーツの元は今から20年前にさかのぼります。当時は大手のハウスクリーニングの会社に臨時で手伝いということで働いていました。ハウスクリーニングの基本はそこで学んだものでしたがそれから後年、専門でやるとは想像もつきませんでした。やる作業といえば先輩についていき空室のワンルームマンションでのクリーニングが主でした。

二人で半日以内に仕上げないといけないためかなりのスピード作業でした。聞くとベテランでワンルームマンションならば一日に二軒仕上げないとお話にならないといいます。特に三月の繁忙期などは二人で一日に三件もやらないととても間に合わないためその月はどこの清掃会社でも臨時で人員を増やし仕事を熟すそうです。私もちょうどその繁忙期の前に入っておりましたので忙しさは経験済みです。とにかく朝早く夜は9時近くまで毎日作業しておりました。それだけの数をこなすということはそれだけていねいな作業が中々出来ないということです。

先輩曰く「最終確認するのは管理会社だから見えるところだけピンポイントで作業すりゃいいんだ」とこういう指導を強要する方でした。

私はそれでもていねいに自分の分担分は作業したのですが「いつまでそんな所をやってんのよ。適当にやらないと次の現場に行けないよ」といつも文句を言われていました。分担制でしたがいつも私が大変な部分ばかりで先輩は楽なところだけで要領がよくずる賢く平気で嘘をつくような人でした。月日も過ぎ私が一人で任されたときなどは時間はかかりましたが一件もクレームがありませんでした。その先輩は毎回クレームで管理会社の信用もありません。ちょうど臨時の契約期間も切れるころその会社から随分と留意されたのですがその当時は本業がありましたので

お暇した次第です。短期間といえ貴重な経験をさせていただきました。その先輩も「佐藤君がいなくなると寂しくなるよ」と送別会のときポツリと言っていたのが印象的でした。しかし掃除業界は実は先輩の様な掃除作業が多く数を多くこなすため要領よくやらないと間に合わないため私の主張は「きれいごと」だと逆に非難されました。私は几帳面な性分なためかこういう方法が我慢ならず先輩とやっていた毎日が屈辱でした。一人で任されたときは嬉しくて本当にていねいに作業できました。時間は多少かかってもあとで手直しのクレームを考えれば微々たるもんだと思います。今となってはその先輩は私にとって「反面教師」でありましたが色々な経験が出来たのもその先輩のおかげです。

あれだけ嫌っていた先輩も今は懐かしく思います。連絡は取りあってはいませんが今もまだこの業界におられると思います。その先輩の口癖が「俺はこの仕事しかできねぇからずっとこの世界で食っていくよ」と深いため息交じりでいつも言っていましたから。

episode2 掃除の根幹

 

それからしばらくして友人からハウスクリーニングの仕事を頼まれました。友人は工務店の経営をしていたのですが私がハウスクリーニングの経験者だということを人づてに聞き依頼してきたのです。この時点ではまだ独立しておりませんし本業もあるので丁重に断ったのです。が、空いている日で構わないから受けでやってくれないかということで友人の頼みでもあるのでやってみることにしました。ただ受けの場合は道具は全部自分で用意しなければなりません。ホームセンターで最低限の道具と洗剤を揃えてここからスタートしました。掃除の基本は身に付けていたのですがプロである以上は洗剤のエキスパートになろうとそれから猛勉強を始めました。今では自分で用途に合ったオリジナルの洗剤を作れるようになりましたがマスターするまでは時間もかかりました。今まではワンルームのみでしたが工務店の物件というと一戸建てが多く一人で目一杯できたとしても丸二日はかかります。中古物件のリフォーム後は特に大変で改築した部屋以外は長年の汚れと対峙しなければならず三日間は時間を要します。ただ本業もありますのでそのような場合は別の掃除会社のヘルプとして参加しました。私がハウスクリーニングの中でも大変だと思うのがサッシ枠です。部屋の形状によってはその数も増えてワンルームでも時間の3割は持って行かれます。私のやり方はサッシを全部外してサッシの四隅を洗剤と水で洗い流します。当然網戸も洗剤と水洗いですが道路沿いですと排気ガスによる油状の黒い汚れがついておりますので通常の洗剤では落ちません。アルカリ洗剤でこまめに落とします。またサッシ枠も固い泥の汚れがついておりますので各種のブラシで落とします。レールも四隅ありますからその形状に沿って洗い流し拭いていきます。窓ガラスは簡単作業ですが窓枠のゴムパッキンの黒カビやたばこのヤニ落としに手間がかかります。また外れないサッシがあったり高窓のケースもありますので本当にきれいに仕上げようとすると一番時間がかかる箇所になるでしょう。でも大変だからていねいにやる必要があるのです。お客様は一番最初に窓を開けます。でも開けた時サッシの隅が黒く汚れていたらがっかりします。私は掃除しながらその様子が頭に浮かんでくるのです。サッシを外さずに適当に済ます業者もいるようですがクレームが多い箇所でもあります。また戸袋が引き戸型やシャッター式など色々ですがこちらもこびりついた汚れが多く落とすのに時間を要します。窓ガラスだけ裏表だけ拭けばいいという単純作業ではないので依頼があった場合はサッシの数によっては割増対象とさせていただく場合もあります。レンジフードの分解と油落とし、トイレの尿石落とし、浴室の黒カビ落としなど手ごわい汚れがたくさんありますが手を抜かなければ大概の汚れは落とせます。時間がかかるからとか料金が安いから適当にやらないと合わないと思っている業者さんがいたらお辞めになった方がいいと思います。この仕事に向いておりませんしお客様が可哀想です。後に「ていねい屋」と屋号を付けましたがこれは自分に対しての戒めでもありますしお客様に絶対にていねいな仕事をしますよという誓いでもあります。掃除業は日々勉強です。本当にお客様から信頼され喜ばれる業務サービスを提供しようとがんばっております。その基本の根幹となったのは恐らくこのころに生まれたものでしょう。

episode3 洗濯機の分解洗浄

 

今でこそ洗濯機の分解洗浄の認知度が上がってきましたが25年前は皆無に等しかったでしょう。当時はまだ二層式も多くまさか縦型の洗濯機を分解して掃除するなど想像もできなかったでしょうね。私の場合は偶然にその場面に遭遇しました。ある日洗濯機に異音が感じられ電気屋さんに修理依頼を頼んだのですが忙しいためか中々来てくれません。業を煮やし直接分解することに挑戦して見ました。当時は簡単な作りのため洗濯パンまで苦労なく開けることが出来ました。結局ベアリングの不具合でした。外したパルセータや洗濯パン、洗濯槽などが黒カビで覆い尽くされとても驚きました。これらの酷かったカビを漂白剤で落としたことがこんにちの分解洗浄の始まりになります。

洗濯機も種類が豊富でメーカーごとに分解難易度が高いものも多く知人の洗濯機を無料で掃除しながら研究してまいりました。

今でこそ全メーカーの洗濯機を取り扱えるようになりましたがその道のりは昨日今日で出来るものではありません。要するに奥が深いのです。

洗濯機の分解洗浄は早くとも3時間はかかります。時間のかかるものは6時間にもなります。つまり徹底的にカビを落としきるまで作業の手は止めません。そのため1日1台が限定となります。料金欲しさに2台手がげてしまえば時間に追われ1台1台がおろそかになってしまうからです。他の業者さんの話を聞くと全行程を大体2時間で終わらせてしまうそうです。耳を疑う様な話です。私の場合は洗浄だけでも2~3時間また汚れがひどい場合は5時間に至る場合もあります。決して仕事が遅いわけではなくカビの根もとまで確実に取るには3回洗浄までしなければ取れないものもあります。また洗濯機オンリーというところも多いみたいですが私の場合は防水パンの消毒殺菌やそれこそネジボルト1本1本までカビを取り切ります。中途半端に黒カビを残すのであれば分解洗浄の意味がありません。雑に洗って半年後に黒カビが繁殖しないよう3年は持たせるように私は愛情込めて綺麗にしております。1年に1回の洗浄を推奨するところが多いようですがどう考えても維持費も高いしそれではお客さんが可哀想です。部分分解だけして中途半端に黒カビを残して1年ごとの掃除を推奨する業者があまりに多いため悲しくなります。

時間はかかるかもしれませんが完全分解で黒カビを取り切りお客さんに喜ばれた方が気持ちがいいと思うのですが・・・。

そのためお客さんには分解前と分解後の説明をキチンとします。また写真を希望の方にはビフォーアフター用に撮っていただきます。

こういう掃除は信頼が大事です。いくらお客さんがわからないかとごまかしては駄目です。今は洗濯機の分解洗浄を専門業にしておりますがこの仕事が好きだからこそ一所懸命になれるのだと思います。お客さんに納得していただき喜んでいただく。これに尽きると思います。